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「ひょっとしたら明日にでも、キルアは此処に来るかもしれないね♠」
髪の毛をタオルで拭きながら、呑気に嘯くヒソカ(結局、いっしょに入った)。一方、ヒソカへの抗議やら、変なトコロを触ろうとする手を避けるのやらに必死だったゴンは、やけにぐったりとして「あー・・・そう」と興味なさそうに返事をした。
「おや、どうした? キルアが来るのは嬉しくないのかい? ひょっとして、もっと僕と二人きりで居たい?」
飄々と言い放つヒソカ。ゴンはもう、相手をするのが面倒くさくなってしまい「それは無いから」とだけ冷たく言い捨てた。
「もー・・・ヒソカの所為で、キルアに怒られちゃったじゃん」
ひとりごちて、ゴンはハァ〜と溜息を吐いた。キルアが必死に自分を探してくれているはずなのに、これではまるで自分だけ遊んでいるようではないかと、ゴンは自己嫌悪に陥る。
そんな落ち込んでいる様子のゴンを見て、ヒソカが微笑んで声を掛ける。
「良いんだよ、ゴン♦ 最初に言っただろう、これはただの『ゲーム』なんだ。ゲームは、楽しんだ者の勝ちだよ♥」
そう言い放つヒソカの言い分はもっともらしく聞こえたが、冷静に考えてゴンは再び抗議の声を上げる。
「楽しんでるのはヒソカだけだろ! オレはちっとも楽しくないよ!」
ムキーと声を荒げるゴンに、ヒソカは「アレ、そうなのかい?」とわざとらしく聞き返す。ヒソカの態度に、ゴンはまたむーっとむくれて黙り込んだ。
しばらくして、ゴンは膝を抱えた状態で座っていたソファから立ち上がり、ベッドに腰掛けているヒソカの前に歩み寄った。
「ねぇ、ヒソカ。聞いていい?」
まっすぐにヒソカを見つめるゴン。その眼の奥に宿る意志の強さを見てとって、ヒソカは軽く、下半身に疼きを覚える。「何を?」と、ヒソカは薄く笑んで聞き返す。
「オレの念を使えなくしたヤツって、誰?」
まっすぐな問い掛けに、ヒソカはニヤリと笑みながらも黙って首を横に振った。
「ダメだよ、ゴン♦ 残念ながら、それは教えられない♣」
ヒソカがやんわりと拒絶すると、ゴンは訳知り顔で「ふぅん、そっか」とあっさり引き下がった。
「じゃあ、もうひとつ聞いていい?」
食い下がるような調子でもなく、まるで何かを提案するようなゴンの口調にヒソカは少し違和感を覚える。しかし「聞かれても、答えられないかもしれないよ♣」と余裕の表情を崩すことなく、ヒソカは笑みを浮かべて返事をする。
ゴンは、言った。
「此処ってさ、キルアん家でしょ?」
ずばりと言い切ったゴンの言葉に、ヒソカの表情から初めて余裕の笑みが消えた。
ヒソカは、ゴンの眼をまっすぐに見つめ「・・・いつから気付いていた?」と、低い声で尋ね返した。それはすなわち、ゴンの言葉の肯定を意味している。
ゴンはヒソカの眼を見つめ返し、ニッと笑みを浮かべて答えた。
「最初の日だよ。用意してくれた着替え、キルアの服でしょ? 匂いですぐわかった。こんなホテルみたいにちゃんとした部屋に閉じ込められたり、食事まで出てきたり、すごく不思議だったけど、キルアの服があるってことはキルアの家なんだろうなって、そう考えたら色々納得できたから」
ゴンの答えに、ヒソカは至極満足した様子で、賞賛の笑みを讃えて「お見事♥」と告げた。
「まさか、君が気付いているとは思いもしなかった♦ それで、此処が何処なのか気付いていながら、君はキルアには何も言わなかったのかい?」
目の前にいる少年は、やはり自分の見込んだ通り、もしくはそれ以上の逸材だと改めて実感したヒソカは、ゾクゾクと湧き起こる興奮を感じながら愉快そうに尋ねる。
ゴンは、ヒソカの言葉に「ん〜〜」と眉をひそめて答えた。
「イヤ、そもそも電話で話せる時間も少なかったから、何も言えなかったっていうのもあるんだけど。でも、それ以上にオレが言うのってすごく変な話だと思ったし。『オレ、キルアんちに居るから迎えに来てよ』なんてさ」
ゴンの言葉にヒソカは苦笑して「確かにね♠」と相槌を打つ。
ゴンはキルアが実家に対してあまり良い感情を持っていないことを熟知していた。『ゲーム』と称して、ヒソカに良いように弄ばれる現状を不愉快に感じ、願わくばキルアには『ゲーム』に勝利して欲しいと思っていたが、反面、苦手な実家に帰ることを強要するのは酷な話だということもゴンは理解していた。
「それに、ヒソカは約束してくれただろ?」
再び、ゴンは眼差し強く、ヒソカの眼を見つめる。
「一週間経ったら、念を元に戻してくれるって。だから、別にキルアに嫌な思いさせてまで、此処に迎えに来てもらう必要もないかなって」
言葉を切って、ゴンは挑戦的な眼でヒソカを捉えた。
「念が戻ったら、力ずくでも此処から自力で逃げれば良いや、って」
その、眼差し。
ヒソカと闘り合ってでも、というゴンの言外の意志を汲み取り、ヒソカは興奮と下半身が帯びる熱を押さえられない。
ヒソカはゴンの腰を抱き寄せ、右手で顎を掴み上げて、グイと無理矢理上を向かせた。
「・・・悪い子だ、ゴン♠ ダメだよ、そんなに軽々しく大人を挑発しては・・・」
囁いて、ヒソカは強引にゴンの唇を奪った。
自身の熱を押し当てるようにゴンの身体を脚の間に抱き寄せて、抵抗する隙も与えないほどに強く抱き締め、ゴンの口腔を侵していく。腕の中、苦しそうに抗うゴンに深くくちづけたまま、ヒソカはゴンをベッドへと押し倒し、ようやく唇を離すとゴンの髪を撫でながら至近距離で囁いた。
「ホラ、こんな風に痛い目を見ることになるよ・・・♣」
苦しさゆえか、目に涙を浮かべ顔を真っ赤にしてヒソカを睨みつけるゴン。その反応ひとつひとつがヒソカの興奮を煽って止まず、ヒソカはゴンの耳朶に、首筋に、鎖骨にと、噛み付くようにくちづけを落としていく。
「い、イヤだっ・・・! やめろっ、ヒソカ・・・!」
「ダメ、止めない♥ 僕を煽る、君が悪い♣」
ゴンの嫌がる声に益々興奮を覚え、ヒソカは嬉々としてゴンの首筋に舌を這わせながら、Tシャツの下に手を差し入れる。ヒソカの大きな掌の、少し低い温度の感触に、ゴンの身体はビクッと跳ねた。
「ヒッ・・・いやだ・・・ヒソカ・・・!」
唇を噛み締め、涙を堪えるようなゴンの表情を覗き込み、更に欲情を募らせるヒソカ。貪るようにゴンの白い肌に痕を残し、ヒソカの手は更に際どい部分へ触れようと下へ伸びてゆく。
「や、ヤダ、やめっ・・・!」
「はーい。お楽しみ中のところ、悪いんだけどさ」
突然、振ってきた声に、ヒソカもゴンも驚いてバッと顔を上げた。
其処にはいつの間に現れたのか、イルミが佇んでいた。
ヒソカは、これ以上はないほどの恨みがましい眼でイルミを睨みつける。
「本当だよ♣ 良いところだったのに、邪魔しないでよ♠」
微かに上気した顔のヒソカが、ベッドの上で涙目のゴンを組み敷いている図をイルミは冷ややかに眺める。ゴンは、イルミに見られている状況にハッと気付き、慌てて衣類の乱れを直しながらヒソカの下から抜け出し、ワタワタとベッドから降りた。
「人の家で児童虐待なんてやめてよね」
いまだ、冷ややかな眼差しでヒソカを見つめるイルミに、ヒソカは憮然として言い返す。
「日常的に弟を虐待し続けてきた一家に言われる筋合いは無いよ♠」
「虐待なんてしてないよ。愛ゆえの訓練さ。それに、ヒソカと違ってウチでは性的虐待はありえないし」
「僕だって、別にゴンを虐待してた訳じゃないさ♦ ただの、愛の行為だよ?」
ねー、ゴン? とヒソカが微笑んで同意を求めようとした相手は、いつの間にかベッドから一番遠い部屋の隅っこへと逃げていた。思わずムッとしつつも、部屋の隅で警戒するゴンの姿がまるで小動物のようで、それはそれで愛らしいと思ってしまうヒソカだった。
「・・・さっき、ツバキから連絡が入った」
話を切り替えるように、長い髪を指でとかしながらイルミはヒソカに告げた。イルミとヒソカのやり取りを、ゴンはなんとなく蚊帳の外のような気持で遠巻きに眺めている。
「早ければ今日、遅くても明日にはキルアは此処に辿り着くよ。キルアが此処に来て、この部屋のドアを開けた時に、今みたいな光景が広がっていたらね、困るんだよ」
ウチの可愛い弟の教育に、悪影響でしょ。とイルミはぷんぷんしながら言った。その言葉を受けて、ゴンは確かにそんなところをキルアに見られでもしたらどうしようと一人赤くなったり青くなったりしている。
しかし、言われた当人はどこ吹く風、の表情。鼻で笑ってつき返す。
「フン、何を言っているのさ♣ むしろ、その方が君にとっては好都合なんじゃないのかい? ゴンからキルアを取り戻す良い機会だ、くらいのつもりでさ♦」
「ゴン、コイツ酷い奴だね、こんなこと言ってるよ? 君とキルアの友情を引き裂くつもりで、君にあんな悪質な悪戯をしたみたいだよ?」
「・・・♠」
ヒソカの言葉を受け流してゴンに振ったイルミ。小賢しい揚げ足取りに渋面を浮かべるヒソカ。ゴンは、目の前の二人の不思議なやり取りに困ったような笑みを浮かべていた。
「ねー、ところで何しに此処に来たの?」
ゴンは、イルミに歩み寄って見上げて尋ねた。邪気の無い眼でイルミを見つめ、「オレの念、戻してくれるの?」と問い掛ける。ゴンには自身の念を封じた相手も察しがついていたようで、その事実にヒソカは再び満足そうにニヤリと笑んだ。
「キルアが来てから戻してあげるよ。よし、じゃあ準備を始めようか」
表情の薄いイルミだが、微かにゴンに笑いかけてから、ポンとひとつ手を叩いた。
「え・・・? 準備? なんの?」
不思議そうな顔でイルミを見上げ、次いでヒソカに視線を移したゴン。ヒソカは薄く笑んで、チラリとイルミに視線を寄越した。それを見て、ゴンはもう一度イルミに視線を戻す。
イルミは、両手を広げて言った。
「パーティーさ」