「キルアには、婚約者がいるらしいよ♦」
「えっ、そうなの!?」


 同居生活も三日目ともなると、嫌でも慣れてくるもので。


 いつも通り筋トレをしているゴンに、トランプで遊んでいたヒソカがなんでもない風に話しかけた。しかし、発した言葉の内容は、少なくともゴンにとっては『なんでもない』レベルの話ではなく、ヒソカの方に顔を向けて聞き返した。


「僕も、イルミから聞いた話だけどね♣」
 期待通りに驚いてくれたゴンの反応にご満悦なヒソカだが、視線は投げずにそっけなく返事をする。
「・・・イルミ?」
 首を傾げるゴンにヒソカは「ああ、」と言葉を続ける。
「ハンター試験の時にいただろう? キルアの兄だよ♠」
「ああっ! アイツ!」
 思い出すだけでも嫌なのか、ゴンはイーーっと歯を剥いて嫌悪感をあらわにした。


「母方の親戚だって聞いたけどね♣ まぁ、よくある政略結婚ってヤツだろうけど♦」
 親友についての新たな情報にゴンは気を落とすのではないかと踏んだヒソカだったが、期待とは裏腹にゴンは目を輝かせて「そっかー、キルアはやっぱりすごいなー」とどこか的外れなことを呟いた。


「・・・とは言っても、キルア自身は婚約者のことを知らないらしいけどね♦」
「あっ、そうなの、なぁんだ・・・」
 今度はなぜか落胆するゴン。どうにも読めない反応に、ヒソカは苦笑する。


「婚約者がいることの、何がそんなにすごいんだい?」
 愉しそうにクスクス笑いながら問い掛けるヒソカに、ゴンはほんの僅かに照れたような表情を見せる。
「え・・・うぅん、別に・・・やっぱりキルアは大人だなぁ、って思っただけなんだけど」


 暗殺一家のエリートとして育てられたキルアは、その年齢からは考えられないほどのスキルとセンスを併せ持っている。戦闘においても、念能力についても、常に半歩前を行くキルアの背中を追いかけているゴンにとって、その差は決して全く妬みなど生まず、純粋な尊敬と敬愛を抱かせていた。


「そうだね、較べて君は全然お子様だもんね♥」
 ニッコリと微笑むヒソカの言葉に、ゴンはボッと赤面した。
「し、仕方ないだろっ、子供なんだからっ!!」
 開き直りムキになって叫ぶゴンを見て、ヒソカは笑いを堪えられない。


 『バンジーガム』から逃れる術のないゴンは、結局二晩続けてヒソカといっしょに寝る羽目に陥った訳だが、一日目の夜はヒソカの『ラプンツェルの塔』についての話を聞いているうちに眠たくなって途中で寝てしまったりと、背伸びのしようもない無邪気な子供ぶりを発揮していた。
 極めつけは朝、ゴンは必ずヒソカの腕の中、抱き締められているような格好で目が覚めるのだが、それについてゴンが不平を言うと
「君って本当に子供なんだねぇ♦ 子供体温ですごく暖かいから、ついつい抱き締めちゃうんだよね♥」
 と良い笑顔でしみじみとヒソカに返され、ゴンは「子供である」という事が無性に恥ずかしくなってしまった訳である。


「・・・まぁ、その話は置いておいて。今回のこの『ゲーム』には、キルアの婚約者にも参加してもらっているんだよ♠」
「え・・・どういうこと?」
 怪訝な顔で尋ねるゴンに、ヒソカは企み顔でニィと笑う。


「女の子っていうのは、基本的に君たちよりも早熟でませているんだ♦ そして夢見がちな生き物でもある♠」
 言いながら、ヒソカは人差し指からオーラを発し、ハートマークを作る。
「親同士が決めた結婚とはいえ、婚約相手は高名な暗殺一家の御曹司だ♣ それは色々と期待もするだろうし、勝手な妄想もするんじゃないのかい♦」
「???」
 顔をしかめて首を傾げるゴン。「要するに」と言って、ヒソカは戯れにゴンに向けてヒュっと一枚カードを投げつけた。飛んできたカードを指の間に挟んでキャッチするゴン。そのスートとナンバーは、ハートのエース。


「塔の上のお姫様は、おかんむりって訳さ♦ どうしてわたしの王子さまは早く迎えに来てくれないの、という具合にね♠」
 ヒソカは念で描いたハートマークを、今度は悪魔のような形相の魔女へと変化させる。
「でも、キルアは婚約者のことなんて知らないんでしょ?」
 ゴンは納得いかない表情で抗議するようにヒソカに問う。
「相手にとって、そんなことは関係ないのさ♣ 夢見る少女は皆、盲目で思い込みが激しい♠」
 1足す1は2です、とでも言うように、自明の理を述べるような口調でゴンに答えるヒソカ。同じ年頃の少女と接する機会がほとんどなかったゴンは、腑に落ちないながらもそういうものなのかと納得し「ふぅん」と短く答えた。


「さて、ゴン♥ この場合、お姫様・・・キルアの婚約者は、キルアに何を望むと思う?」
 突然の質問に、ゴンは鳩がレーザービームを食らったような顔をした。
「え、え? えっと・・・今すぐ結婚してよ、とか?」
 当てずっぽうで答えたゴンに、ヒソカは嬉しそうに「ブーー、残念♣」と言う。ヒソカの人を食ったような態度に、いつものことながらゴンはムッとしてしまう。


「さすがゴン、答えが短絡的だね♥ 女の子は、夢見がちである反面、酷く現実的だったりもするのさ♠」
 というわけで正解は、とゴンの表情を伺うようにしながらヒソカは続ける。


「『ゾルディック家の跡を立派に継いで、一人前の暗殺者になって、早くわたしを迎えに着てよ』というところかな?」
 ヒソカに馬鹿にされたムカつきも手伝って、ゴンはその答えを聞いて更にムッとした表情になる。
「・・・それってなんだか、キルアの家の人みたい」
 キルアの母や兄イルミの言い分そのものだと思ったゴンは、不満を顔いっぱいに表す。その表情を見て、ヒソカは「まぁ似たようなものだろ、いずれは家族になるんだろうし♣」とそっけなく答えた。

















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