引きつった笑みのような形の三日月が、濃紺の夜空に張り付いた街の片隅。
夜闇に紛れて生きていくことしかできぬ住人たちが、今宵も闇を纏って踊り出す。
濡れた石畳の路地裏には、目の色のくすんだヤクザ崩れの薬の売人たちがカモを狙って佇んでいる。
雑居ビルの前には、酒か薬か、酩酊した男がボロ雑巾のように横たわり、反吐に塗れてうずくまって呻いている。
その傍らで、真冬にも関わらず、身体を覆う布の少ないドレスに身を包んだ娼婦たちが疎らに通る人々に声を掛ける。
「お兄さん、今晩どう?」「1万ジェニーで良いよ」「本番、ヤらせてあげるから」。
国籍もまちまちの女たちが、からかうように男たちの耳元に囁いていく。
20代前半ほどの女が大半のように見えるが、けばけばしい化粧と衣装でごまかされ、中には皺の目立つ者もいれば、年端のいかぬあどけなさを残した少女もいる。
その女は、明らかに後者の側だった。顔の造作は大きく、大人びた顔立ちをしているが、厚い化粧で覆った鼻頭には、うっすらとそばかすが覗いている。未だ膨らみの足りぬ胸をなんとか豊満に見せようと、わざと胸元を強調するようなドレスが、背伸びしたがる少女らしさを逆に伺わせる。
女は鮮やかな赤い髪をゆるく巻き、顔の半分を隠すようにおろしている。首に巻いた黒いファーとおろした赤い髪の間から覗く灰色の瞳が、ひとりの男を捉えた。
その瞬間に、女の眼は驚きで丸く見開かれる。
女と同じ赤い髪の男。長身で、美しいほどの見事な筋肉を纏った男は、まるで道化のような特徴的な外見をしていた。しかし、男の最も特徴的な容貌は、底知れぬほどに冷たい眼だった。
その男を視界に捉えた女は、反射的に走り出し、男に駆け寄って行った。
ドレスの裾を捲り上げ、息せき切らし、ヒールの靴で走り寄る。
その様子は、決して商売の為とは見えず、女の商売仲間たちも不思議そうに女の行動を遠目に眺めていた。
男は、近づいてくるヒールの足音に気づいて、歩みを止めて女をチラリと見た。
さして、興味もなさそうな冷たい眼で女を一瞥する。
その眼に、女はゾクリと興奮を覚えて、思わず喘ぐように男を呼んだ。
「ああ、『ジョーカー』・・・! また、あたしを救いに来てくれたのね・・・!」
待ちわびていた、と言わんばかりの声色。
ジョーカー、と呼ばれた男は、突然掛けられた声にも表情を変えない。
男の反応に構うことなく、娼婦は続ける。
「また貴方に会えるなんて、思いもしなかったわ! この街に残って、本当に良かった・・・! ねぇ、お願い、あの時みたいに、あたしを助けて・・・!」
女は懇願する。
この街の娼婦たちは、稼ぎのほとんどを地元に根付く大物マフィア"グリソム"に徴収されてしまう。力で捻じ伏せられ、絞りつくされ、身体を病んで死んでいく仲間を女は何人も看取ってきた。
「お願い、あいつらをやっつけてよ! あの時みたいに・・・! あの、憎い男の腕を切り落とした時みたいに・・・!」
この街にはびこるマフィアを滅ぼして欲しいと赤髪の男に懇願する女。
男はさしたる興味もなさそうに、女の叫ぶような声を聞くともなしに聞いていた様子だったが、何か思いついた様子で、初めて表情を動かした。
男は冷たく、妖しく、微笑って言った。
「ねぇ・・・頼みがあるんだ♦」
男の冷たい笑みを、冴えた白い月の光が淡く照らし出す。
二ヶ月後、この街にゴンとキルアが訪れることを、男は当然、この時は知る由もなかった。
1
リンドンシティ。
ヨークシン、エドシティに次ぐ世界第三位の大型経済都市。人・物・金の動きの中心都市でありながら、伝統と格式を重んじる街並みは一風変わったものがある。
昼下がりの日差しの中、上を横を、キョロキョロと物珍しそうに眺めながら、ゴンは目を輝かせて街を歩んでいた。
その様子を、隣を歩くキルアが小声で嗜める。
「おい、ゴン・・・ゴン! あんまりキョロキョロすんなよ! 田舎者みたいで恥ずいだろ!」
気まずそうに少し頬を染めながらゴンを睨みつけるキルア。しかし、叱られたゴンは嬉しそうな笑顔をキルアに向ける。
「だって、キルア、この街すごいね! 古い建物がいっぱい! 見ていて飽きないよ!」
人目を憚らず大声で叫んだゴンは、スキップでもし出しそうな軽やかな歩調で歩みながら頭上を見上げている。そんなゴンとキルアの横を、スーツに身を包んだビジネスマンや、買い物途中と思しき婦人たちが、微笑ましげに二人の様子を見守りながら通り過ぎていく。頭上を見上げて歩くゴンと対照的に、キルアは気恥ずかしさから下を向いて唇を噛み締める。
(くそぉ・・・ゴンのヤツ・・・)
通行人の視線に晒される辱めを受けながらも、楽しそうに街を行くゴンの姿に少なからず微笑ましいものを感じてしまうのは、キルアも同じだ。諦めたように、フッと溜息をひとつ吐いてから、キルアも頭上を見上げた。
中心地にも数百年以上前の建物や街並みが残されており、石造りの建物や街路が続いているリンドンシティ。商業の中心地でもあるため、路面に面した一階はブティックや高級ブランド店、世界的に有名なチェーンストアなどが軒を連ねており、キラキラと華やかなショーウインドウが並んでいるが、上階は昔の建物がそのままの形で残されており、重厚な石造りの壁にアンティーク調の窓が埋められた、まるで中世のような風景が頭上には広がっていた。
現代と中世のアンバランスな調和。今まで見たことのない不思議な街並みに、ゴンは胸を躍らせる。
一方のキルアは、幼い頃に父親に連れられ、何度か訪れたことのある街であるため、ゴンほどの興奮はないが、それでもやはりこの街の独特の光景にはいつもながら不思議な感覚にさせられる。
人通りの著しく多い中心地。街を象徴する、真っ赤な二階建てバスが二人の目の前を通り過ぎ、ゴンはまた目を輝かせて笑顔を浮かべる。
叶うなら、このままゴンと見知らぬ街を探検し、めいっぱい遊び尽くしたいキルアだったが、そうもいかない。遊びでこの街を訪れた訳ではないのだと、キルアは自分を戒める。
「ほら、ゴン! オレたち遊びに来た訳じゃねーんだぞ! いいからとっとと警察行こうぜ」
わざとつれなく声を掛けると、ゴンは「・・・わかってるよぉ」と少々ぶすくれた表情を見せる。ホントにわかってんのかよ、とキルアはその表情を見て苦笑いを浮かべる。
二人はハンター協会からの指令を受けて、このリンドンへとやって来た。ハンター協会自体は、リンドン市警からの要請を受け、『適正を考慮して』ゴンとキルアの二人をこの地へと派遣したのだそうだ。
指令の内容とは、二ヶ月ほど前からリンドンシティを恐怖に陥れている『ジョーカー』なる連続殺人犯を捕獲せよ、というものだ。
たかが、と言っては語弊があるが、殺人犯ごときの逮捕に、警察がハンターに協力を要請するなど滅多にない事例である。警察の威信に関わる問題でもあるし、ハンター協会としても、いちいちそんな要請を受けていたのではハンターが何人居ても足りはしない。
だが、今回の事件についてはハンター協会が動かざるを得ない事情がいくつかあった。
まず第一に、通称『ジョーカー』と呼ばれる殺人犯は念能力者である可能性が高いこと。
そして第二に、その通り名からも連想されるように、ゴンとキルアがよく知る、プロハンターのライセンスを持つ男が、犯人ではないかと疑われていること。
事件との関与を疑ったハンター協会が、容疑者の元へと派遣した別のハンターは未だ連絡が取れず行方不明の状態だそうだ。状況に応じて、殺人をも免責にする効力を持つハンターライセンスではあるが、『ジョーカー』のあまりに非道な犯行から、もし仮に犯人がプロハンターだった場合には、ハンター十か条の第四条を適用し、ライセンスを一時的に没収してでも罰せよ、と協会側は考えている様子だ。
事件についての詳細は、メールにて二人に膨大な量の資料が送られてきたが、ゴンは途中でギブアップし、キルアもザッと目を通しただけだ。その為、まずは依頼を掛けてきた警察へ赴いて話を聞こう、という二人の目論見だった。
さて、と目的の場所へようやく向かおうとキルアが思ったその時、50mほど離れた場所から、ドサッと、何か砂袋のような重いものが地面に落ちた音が聞こえた。
瞬間、遅れて「キャーーー!!」という女性の悲鳴が上がり、周囲にざわついた空気が広がる。
ゴンとキルアは目を合わせ、真顔に戻って、音のした方へと駆けて行った。
既に人の輪ができており、小さな子供二人は大人たちの間をぬって輪の中心へと進んでいった。
そこには――――ゾンビ、と表現するのが最も適切な人間(のようなもの)が痙攣しながら横たわっていた。
全身の血管を浮き立たせ、目を見開き、歯を剥き出しにし、涎を垂らしながらガクガクと不自然な動きで痙攣を続ける男。髪は一本も生えておらず、落ちた時に地面に打ち付けたのか、頭から大量の血を流し、赤色を路上に描きながら、人とは思えぬ声でうう、とかああ、とか呻いている。
底冷えのするような恐ろしい声で、男がかろうじて言葉らしきものを紡いだ音を、ゴンとキルアは確かに聞き取った。
「くすり・・・クスリを・・・『エデン』を・・・」
その言葉を聞き、薬という単語から、キルアは即座に薬物中毒と判断する。
(だけど、こんな禁断症状・・・ありえないだろ?)
キルアは男の様子を見て、思わずゴクリと喉を鳴らして唾を呑む。
その時、男の呻き声が断末魔のような叫び声に変わり、華やかなはずの街並みが一転して狂気を帯びた。男の悲鳴に合わせるように赤ん坊の泣き叫ぶ声が加わり、一瞬パニックが起こる。
そこへようやく、伝統的な制服に身を包んだ警察官と救急隊が到着し、蜘蛛の子を蹴散らすように野次馬を男から遠ざけていく。
ゴンとキルアも例外でなく、むしろ子供に見せてはいけないものだと言わんばかりに、他の野次馬たちよりも強引に、その場から引き剥がされてしまう。
特に男の様子に興味があるわけではなかったが、周囲の人々がざわざわと話す会話になんとはなしに耳を傾けるキルアとゴン。
「またエデンの犠牲者か・・・」
「『ジョーカー』といい、『エデン』といい、最近のリンドンは一体どうなっているんだ・・・」
口々に語る大人たち。キルアは何事か物思いに耽りながらその場を去ろうとしたが、ゴンは足を止め、近くにいたビジネスマンを見上げ「すみません、『エデン』ってなんですか?」と素直に聞いてしまっていた。
問われた大人たちは、一瞬きょとんと驚きの表情を浮かべ、次いで困惑の色を見せる。子供に話せる内容ではないし、どうごまかしたら良いものか、と困った様子だ。
「ばっ・・・お前、いいから来いって!」
キルアは、大人たちのあまりに当たり前な反応に逆に申し訳なさを感じながら、ゴンの腕を無理矢理引っ張ってその場を離れた。「えぇ〜、なんだよキルア〜」と不満そうな声を上げながら、ゴンは渋々キルアに腕を引かれるままついてくる。
「ばっか野郎、周りから見ればオレたち、ただの善良なお子様なんだぜ!? クスリの話なんかしてくれるはずねぇだろ!」
興味と好奇心からホイホイ動いてしまうコイツの性質をどうにかしてくれと、保護者のような気持で嘆息するキルア。しかし、言われたゴンはまだまだ不満げな表情だ。
「だってさー、麻薬のことなんて本来、ヤクザとか裏社会の人たちの世界の話でしょ? なのに、あの人たち、全然普通の人たちなのにドラッグの種類まで知ってたってことは、よっぽど有名な麻薬なのかなぁ・・・って」
ゴンが口にした疑問はキルアももっともだと思うところではあった。『エデン』という麻薬自体が余程有名なのか、もしくはそこまで一般的に知られてしまうほどに、この街は薬物汚染が進んでしまっているのか。真っ昼間から、麻薬中毒者が窓から落ちてくるなど、こんな大都市のメインストリートにはあまりに似つかわしくない光景ではないか、とキルアは思う。
しかし、いずれにせよ、一般市民が二人に詳細を教えてくれるはずもない。
「・・・ま、それについても、これから聞けば良いんじゃん?」
言って、キルアはニッと笑う。
彼らが向かう先は、犯罪を専門的に扱う機関なのだから。
ゴンも、キルアの言葉にアッと気づいたような顔をして、笑みを浮かべてコクンと頷いた。
格式と伝統。それを重んじる国風が如実に現れているリンドン市警の建物だった。
石造りの重厚な建物の前には、立派な庭が広がっている。
これまた立派な門の前に立ち尽くし、ゴンとキルアは、ほえぇ〜と口を半開きにして警察署の本庁舎を眺めていた。
そんな二人に、門番の若い警官が声を掛ける。
「どうした、坊やたち? 迷子かい?」
このような扱いをされることも慣れた二人ではあるが、小生意気な性格のキルアは憎たらしく鼻でせせら笑う。
「いーや、オレたち、『ジョーカー』事件の解決のために来たんだけど?」
フフン、と言ってみせるキルアに、若い警官は珍妙な表情を浮かべる。
「ハハハ、それは頼もしいな」
当然に冗談と捉えたようで、警官は曖昧な笑みを浮かべて言う。
そこで、ゴンは「この紋所が目に入らぬか」と言わんばかりにビシッとハンター証を突きつけて言った。
「オレたち、ハンターですけど!」
困った時のライセンス頼み。大人たちを納得させる為には、時にはこういう形でハンターの資格を利用せねばならないことを、ゴンもキルアも経験上、重々承知していた。
突きつけられたハンター証を見て、再び珍妙な顔を浮かべる門番。目を遠ざけたり近づけたりして、本物かどうかを判別しようとしている様子だ。
「と、とりあえず・・・少々、お待ちくださいっ・・・!」
どうにも判断がつきかねたようで、警官は慌てて無線で誰かと連絡を取り合っている。
その様子を見て、ゴンとキルアは顔を見合わせて複雑な笑みを浮かべあった。
そうして二人が通された応接室は、建物の外見の重厚さとは裏腹に、非常にシンプルなつくりだった。途中、横目に見てきた窓口やその奥に広がる執務スペースも、IT機器が多く並ぶ近代的でシステマチックな様相であり、ここにも新しさと古さの同居が見てとれた。
女性警官に出された紅茶をすすりながら、居心地悪く担当者を待つ二人。警察の仕事を手伝うなど、当然二人にとっては初めてのことで、なんとなく窮屈な気持になる。
そう待つことなく、ノックの音と共に二人の刑事が部屋に入ってきた。
先導して入ってきた男は、中肉中背といった背格好であったが、顔立ちから精悍さや聡明さが伺える、口髭を生やした40代半ばの刑事だった。この職業にしては珍しく、人好きのしそうな笑みを二人に向けて「待たせて悪かったね」と声を掛ける。二人は、ソファから立ち上がってぺこりと会釈をした。
「はじめまして、ジョーカー連続殺人事件の責任者のブラウンと言います」
刑事の自己紹介に対し、二人も自分の名前を名乗り、キルアはこの国の礼儀に則って握手をしようと右手を差し出す。
すると、ブラウンはほんの少し困ったように苦笑を浮かべ、「申し訳ないが、こちらでいいかな」と左手を差し出してきた。キルアは、その対応に「ん?」と不思議な顔を浮かべて首を傾げたが、特に気にすることもなく左手で握手をした。
その様子を見て、ゴンの視線はなんとなく刑事の右手に注がれてしまう。ブラウンの右手は黒い手袋が嵌められている。その視線に気づいた刑事は、特に躊躇うでもなくあっけらかんと説明を述べた。
「あぁ・・・こっちはね、義手なんだよ。二年前の事件で、ちょっとね」
その言葉に、どう反応したらいいものか少々困惑気味のゴンは「そうなんですか・・・」と沈痛な面持ちで答える。そういった反応にもブラウンは当然慣れている様子で、ゴンに気にするなと言いたげな、温かい笑みを向けた。
もう一人の刑事はホワイト、と名乗った。こちらは30代前半くらいに見え、長身で細身の、眼鏡を掛けたインテリ風の男だ。スーツもよく似合っており、刑事というより有能な営業マンか何かのように見える。
「どうぞお掛けください」と、ホワイト刑事が二人に声を掛け、ローテーブルを挟んで二人ずつ向き合ってソファに腰を下ろした。そして、ファイリングされた資料をいくつかテーブル上に広げながら、ブラウンとホワイトが交互に事件の概要の説明をかいつまんで述べる。
連続殺人鬼、ジョーカー。今から約二ヶ月前に第一の事件が発生。被害者は13歳の少女。死因は失血死。学校帰りを狙われ、頚動脈を一筋、鋭利な刃物のようなもので切断され死亡している。その後も毎週のように犯行が繰り返され、酷い時には手足をバラバラにされた死骸が発見されている。現在までに既に8人もの犠牲者が生まれている。
ジョーカーの通り名は、遺体に必ずトランプのジョーカーのカードが添えられていることからついた名だった。しかも、警察は何度か逃走する犯人の姿を目撃しているのだが、犯人は道化の衣装をまとい、ピエロの面をつけていたという。
「でも、現場にカードが置かれていただけなら、同一犯の仕業じゃないかもしれないってことは、考えられない?」
説明の途中で、キルアが疑問を口にする。ブラウンは、神妙な面持ちでキルアの視線を受け止めながら、首を横に振った。
「・・・遺体の切り口が、鮮やか過ぎるんだ」
一遍の躊躇いもなく、首筋に引かれた朱色の線。監察医も思わず唸るほどの鮮やかな切り口は、決して素人に真似できる業ではない。例え犯人が複数いたとしても、ジョーカーの名に便乗した愉快犯や模倣犯はありえないのだ。
その説明に、ゴンは否応なしに『彼』の姿を思い浮かべてしまう。
血の滴るジョーカーのカードで、鮮やかに人を切り裂いていく、赤毛の男。
「それにしても・・・」
ゴンの心中には当然気づかぬブラウン刑事は、穏やかな笑みを湛えて切り出した。
「気を悪くしたら失礼だが、こんなにお若い二人を派遣してくるとは思いもしなかったよ」
その口調は、決して見下したり馬鹿にしたりする調子ではなく、どちらかというと子供の身を案じる大人としての立場から発せられたもののようだった。
刑事の懸念について、ゴンが述べる。
「ハンター協会から、オレの携帯に電話が入ったんです。今回の事件は、子供ばかりが狙われているから、逆に子供のオレたちの方が捜査に協力しやすいんじゃないか、って」
ゴンの言葉通り、今回のジョーカーによる犠牲者8人は、全て10〜15才の子供ばかりだった。協専に属している訳でもないゴンの元へ協会から連絡が入ったのは、『彼』との繋がりと、事件の犠牲者たちの年齢から『最も適したハンター』と判断されたようだ。
「そうそう、心配してくれんのは良いけど、オレたち、それなりに強いしさ。おとり捜査とかも余裕でできるぜ?」
キルアがゴンの言葉を受けて続ける。元々、そのつもりでリンドンを訪れた二人である。
今や、ジョーカーへの恐怖に怯えるリンドン市民、特に子を持つ親たちは、陽が落ちてからは絶対に子供を一人で外へは出さぬよう、厳重に警戒している。政府も子供の登下校は集団で行わせるよう、市内全ての小中学校に指示を出しているところだ。
そんな厳重警戒の中、夜中にふらふらと子供が歩いていれば、敵の目には絶好の獲物として映るに違いない。だからこそ、子供であるゴンとキルアが派遣されたのだと二人は認識しており、おとり捜査は彼らの役目と自負していた。
そんなキルアの自信満々な言葉を受けて、ブラウン刑事は渋い表情を浮かべる。
「いや・・・申し出はありがたいが・・・その・・・」
言葉を濁し、困ったようにブラウンはホワイト刑事と顔を合わせる。
そんなに自分たちが頼りなく見えるのか、とやや不満げな気持を抱いたゴンとキルアだったが、ブラウンから発せられた言葉は、二人にとって予定外のものだった。
「今回の事件の犠牲者は、全て、女の子なんだが・・・」
「「え」」
思わず絶句して、ゴンとキルアは顔を見合わせる。
しばらく無言で見つめ合った後、二人は冷や汗をかきながら、アハハ〜と曖昧に笑みを浮かべていた。