※下品な話でスミマセン(汗)














 遡ること1週間前。
 ヒソカはキラキラ光るゴンの真っ直ぐな瞳に見つめられながら、こう懇願されたのだ。


「あのねヒソカ、オレ、ヒソカからバレンタインのチョコが欲しいんだ!」


 その瞬間、ヒソカの股間がズギュンと鳴ったのはご愛嬌。
 「ん? 何の音?」とキョトンと尋ねるゴンに「ボクのハートが高鳴った音さ♥」と白々しい笑顔で答えるのもいつものことで。


 愛するゴンにそんな可愛いお願い事をされて、ヒソカが張り切らないはずもなく。
 なんとしても愛しいゴンの期待に応えるべしと、その日から今日まで、ヒソカは持てる財や人脈の全てを駆使して、最高のチョコレートを用意すべく奮闘していた。


 その結果。


「ほらイルミ、見ておくれよこの素晴らしいチョコレート♦ これで、ゴンのハートはボクのものさ♥」
 完成したソレを、さも得意げに堂々とイルミに披露してみせるヒソカ。
 見せられたイルミは、元々動きの少ない表情を更に失くしていた。


「・・・・・・。ゴンにあげるの? コレを?」
 冷酷に、最大限の軽蔑心を込めてイルミが確認する。


 無表情のイルミの眼前にそびえ立っていたのは、まるでダビデ象さながら、見事な裸体を曝け出したヒソカの等身大チョコレートだった。


「当たり前だろ♠ その為に1週間かけて職人に創らせたんだから♦」
 フフン、と得意そうにのたまうヒソカ。
 それは冗談などではなく完全に本気のようで、その自信満々な姿を見て、ああコイツってこんなにバカだったんだな、とイルミはビジネスパートナーの認識を改めることにした。
 しかしイルミの侮蔑の視線などまったく気付くこともなく、ヒソカは悶々と妄想を募らせる。


「ああ、ゴンがボクを象ったこのチョコを美味しそうに舐めるところを想像するだけで、ボクは、ボクは・・・♥」
 段々と興奮度合いを増していくヒソカ。


 汚らわしいものを見るように嫌々イルミがそのチョコレート像を確認してみれば、異様なまでに細部までグロテスクに再現されている股間は猛々しく隆起しており、しかもご丁寧に先端部からホワイトチョコレートらしき白い飛沫が薄くあしらわれている。


「やあイルミ、よく気付いてくれた♦ そうだよ、ソコが一番の力作なんだ♥ ソレを一生懸命舐めるゴンが『おいひいよ、ヒソカ』なんて、ニッコリ笑って言ってくれたら・・・ああああぁぁぁぁっっ♥♥♥」


 妄想だけで絶頂でも迎えたのか、頭を抱えて身体を逸らせながら、ヒソカの股間がズギューーーンと光と音を放つ。
 おめでたくも品性下劣なヒソカの思考回路に、イルミは何をか言わんやである。
 無言無表情のままイルミは冷静に思う。


(本当におめでたいね、コイツ。ゴンがどうしてヒソカに「チョコくれ」なんて言ったのか、全然わかっていないんだな)


 ヒソカに対して哀れみと蔑みを抱きつつ、これはこれで無様で面白いものだと、イルミは敢えて何も告げることなくバレンタイン当日を迎えたのだった。


















「ゴン♥ ボクのとっておきのチョコレート、受け取っておくれ♥」
 バレンタイン当日。
 用意していた等身大(裸身)チョコレートをゴンに渡すヒソカ。チョコ本体は注意深く冷蔵車に乗せて運んできた念の入れようである。
 ゴンと共に居たキルアは、そのチョコを見てあからさまに「うげっ」という顔を見せたが、贈られた当人は。


「うわああぁ! すごいや、ヒソカそっくりだね! こんなに大きいチョコ、オレ初めて見たよ!」


 ゴンは眼を輝かせて両手を胸の前で握り締め、キルアとは完全に相反する反応を見せた。
 喜ぶゴンの様子に、ヒソカもご満悦でクックックと嬉しそうに笑っている。


「そうだろう、ゴン♥ さあ、思う存分しゃぶりつくとイイ♥」
 バッと右手を等身大チョコ像へ差し出しヒソカはゴンを導こうとするが、しかしゴンはそんなヒソカになどお構い無しで、キルアに対して必死に何事か訴え始めた。


「ホラ、ヒソカがこんなに大きいチョコくれたんだし、オレの勝ちだよキルア!」
「バカ言ってんじゃねぇよ、大きさじゃなくて数で勝負だろ!? 大差ねぇよ!」
「そんなこと無いよ! それに、数で言ったって、オレはミトさんでしょ、ビスケでしょ、パームでしょ、それから・・・」
「うるせぇな、オレだってアルカと母親と・・・」
「家族ばっかりじゃん!」
「お前だってミトさんは家族だろ!」


 ギャーギャー言い合うゴンとキルア。
 どうやら二人は、どちらがバレンタインデーに多くチョコをもらうか、勝負をしていたようだ。


 そんな、子供たちが言い争う様子を、ヒソカはぽつねんと眺めている。
 そうかそういうことだったのかゴンが自分にチョコをくれと懇願したのはそういう理由からだったのか、と今更にヒソカは理解する。
 だが、それで落ち込むようなヒソカではない。
 どんな背景があったにせよ、ゴンがこのヒソカ等身大チョコを舐め尽くす姿を見ることはいくらでも可能なのだから。


 もう一度、ゴンの注意を等身大チョコ像に向けさせようとするヒソカだが、そこへ巨大な4tトラックが、かなりのスピードでゴンとキルアに突っ込んできた。
 アッと反応して子供たちは咄嗟に「纏」を行ったが、トラックは二人の眼前で急回旋し、キキーーーッとけたたましい音を立ててその場に停まった。


 そして、荷台がゆっくりと斜めに傾いた後、後ろの扉が開かれる。


 ザザザザザーーーッ。


 大量の紙箱のようなものがトラックの中から雪崩れてきて、ゴンとキルアはその渦に飲み込まれていった。
 しばらくして、もがくように箱の海から顔を出したキルアが「何なんだよ、一体!」と忌々しげに毒づくが、周囲を埋める箱の正体を知った途端に歓喜の色を見せた。


「チョコロボくんだ!」
 それはキルアお気に入りの玩菓で、辺りを埋め尽くすほどの大量のお菓子の箱に、キルアはワクワクと色めき立っている。
 その直後、トラックの運転席から長い髪をなびかせながら降りてきた人物は、当然。


「兄貴!?」
 ゲッと嫌そうな顔を見せるキルアに、イルミは無表情ながらもどこか嬉しそうに「や、キルア」と片手を挙げて挨拶する。


「キルの誕生日にあやかって、7万7777個のチョコロボくんを用意したよ。キル、嬉しい?」
 恩着せがましく尋ねるイルミに対し、しばし呆然とした後、キルアにしては珍しく、「うん、ありがと兄貴!」と素直に礼を言ってみせる。
 そして直後に、キルアは箱に埋もれたままのゴンに向かって勝ち誇った笑みを向けた。


「ホラ見ろ! 圧倒的にオレの勝ちだね! イル兄がこんなにいっぱいチョコくれたし!」
「そんなことないもん! 大きさだって量だって、ヒソカがオレにくれたチョコの方が大きいよ!」
「普通、こういうのって大きさじゃなくて数で勝負だろ!? お前も素直に認めろよ」
「だってヒソカの方が大きいもん!」


 ムーーっとむくれてキルアを睨みつけるゴン。
 キルアも、ここは譲る理由も無いため、険しい顔でゴンを睨みつけている。
 二人の視線がバチバチと火花を飛ばして交わる中、ヒソカはイルミに近寄ってニコニコと告げた。


「う〜ん、こういうのもイイもんだね♥」
「何が?」
 ヒソカにはまるで興味が無いようで、視線をキルアに固定したままイルミが尋ねる。


「アレってまるで、ボクのゴンへの愛の方が、キミのキルアへの愛より大きいって、ゴンが主張しているみたいじゃないか♥」


 う〜ん、と嬉しそうに唸るヒソカ。
 しかし、それを聞いてイルミは「は?」と嫌悪感を露にする。


「何言ってんの? 俺のキルへの愛が、お前のゴンへの興味なんかと比べ物になるはずないだろ」
 ヒソカの想いを敢えて「興味」と言い換えたイルミだが、ヒソカは意に介した様子もなくフフンと嘲笑を浮かべてみせる。


「ボクのゴンへの愛は、キミなんかには到底計り知れないよ♠」
 その笑みと言葉が気に障ったのか、イルミはそれを受けて無言で針を取り出し、全ての指の間に挟んで臨戦態勢を取る。ヒソカも嬉々としてトランプを取り出した。





 その瞬間。




 ドカーーーン!!!




 激しい衝撃音が轟いた。
 そして、ゴンの勝ち誇った声が響く。


「ホラ! 数で勝負って言うなら、これで数もいっぱいになったでしょ!? オレの勝ちだよ、キルア!」


 堂々と拳を握り締めて言い放つゴンを、キルアは呆然と眺めている。
 否、呆然と眺めているのはヒソカも同じだ。


 ゴンは、「数が多い方が勝ち」だと譲らぬキルアに対して、ヒソカ像を拳で粉々に砕くことで「数」を増やしてみせたのだ。


「・・・・・・♠」
 あまりの仕打ちに、流石のヒソカもショックを受けている。
 イヤしかし、ここはゴンが強くなったと喜んでみせるべきかとヒソカは反応に困っているが、自らの夢(もとい、妄想)が潰えてしまったことはやはり嘆かわしいようだ。
 眉尻を下げ、ヒソカはどことなく哀しそうな表情を浮かべている。


 しかし、そんなヒソカの様子を知ってか知らずか、ゴンは粉々に砕けた破片の中から、奇跡的に原型を留めていた、先端にホワイトチョコレートのかかった棒状のソレを取り上げて、パクッと口に含んでみせた。
 そしてゴンは、フヒヒと嬉しそうな笑顔をヒソカに向ける。




「おいひいよ、ヒソカ」




 その笑顔と言葉に。
 ヒソカのハートはキュンと高鳴る。


「ゴン・・・♦」
 ヒソカは静かにゴンの名を呼んで、そっと歩み寄る。


「・・・ホワイトデーには、チョコなんかじゃなくて、ホンモノのボクのを舐めておくれよ♥」


 そう告げた瞬間に、キルアの鋭い蹴りがヒソカの向こう脛に炸裂した。