※頭に虫がわいたようなヒソゴンを書きたかっただけの2013年バレンタイン話です。
うわああぁ、どうしよう、明日はいよいよバレンタインデーだ。
明日こそヒソカに「大好きだよ」って言うんだって決めてたのに、いざとなったらドキドキ不安いっぱいで勇気が出ないよ・・・
オレ、ヒソカのこと見てるだけでドキドキしちゃうんだ。
まず、ヒソカって顔がすごくかっこいいよね。
ヒソカの細い目は、闘うときはすごく残酷で鋭くってそんな目もゾクゾクしてかっこいいって思うんだけど、オレに笑い掛けてくれるときだけすごく優しくなる・・・ような気がするんだ! き、気がするだけだけど・・・いいだろ、勝手に思い込むくらいオレの自由でしょ!
あと、おっきな口とか、唇とか・・・時々まっかな舌で唇を舐める仕草とか、オレ、真っ直ぐ見ていられないくらいドキドキしちゃうよ!
それにね、ヒソカってすごくおっきくて筋肉もりもりだし、誰にも負けないくらい強いし、すごくかっこいいよね! ヒソカが立ってる姿を遠くから見てるだけで、本当にかっこいいなぁって見惚れちゃうんだ・・・。
出会って最初のときは殴られたり、天空闘技場でもたくさんバカにされたりして、そのときはすごく悔しかったけど、今はヒソカがオレにどんな言葉をくれたのかとか、どんな表情だったのかとか、思い出すだけで胸が熱くなるんだ。
天空闘技場の200階で一旦追い返されたときも、あのときはすごくすごく悔しかったけど、今になって思い返してみたら、念を使えないオレたちがヒソカ以外の奴らから洗礼を受けないようにって気持で追い返してくれたのかなぁ・・・って考えたら、ヒソカってオレのこと気にかけてくれてるってことなんじゃないのかな!? とか、自分に都合の良いように考えちゃうよ。
ひょっとしたらヒソカはキルアのことを気遣っただけで、オレのことは別になんとも思っていなかったのかもしれないけどさ・・・。
ううぅ、胸が痛いよ、苦しいよぉ。
オレがこんな風にヒソカの仕草とか行動とか見てるだけでドキドキしたり、ヒソカのこと考えるだけで胸が苦しくなったりしてること、きっとヒソカは全然気づいていないんだ。
だから・・・明日こそ、きちんと自分の気持を伝えて、こんな状況に決着をつけてやる!
そのための武器になる、甘くて美味しいチョコレートを、今から買いに行くんだ。
ヒソカ・・・受け取ってくれるかな・・・
ああ、やっぱりドキドキする! 不安いっぱいだよ!
本人を目の前にして逃げずに済むように、すごく立派で美味しいチョコを用意しなきゃね!
「ということを考えながら、ゴンは今、あそこのショコラティエに入って行ったんだと思うんだけど♦」
物陰に隠れ、ハァハァとやや呼吸を荒げながらイルミに話し掛けるヒソカ。
ゴンのストーキングをしながら、彼の思考を勝手に妄想してイルミに実況するという、誰にとってもはた迷惑な遊びをヒソカは日課としているのだった。
付き合うイルミもイルミで、当初はヒソカの深刻な変態ぶり(ストーキングだけでも十分変質的な上に、妄想ごっこで悦に入っている姿は知り合いであることを辞めたくなるレベルの気色悪さ)に呆れつつドン引きしていたが、今ではむしろ振り切れてヒソカのあまりの痛々しさが逆に楽しくなってしまい、どんな痛い発言が飛び出てくるかと心待ちにしているような状況なのであった。
今日も今日とてバレンタインデー前日ということで、ゴンがどんな風に過ごしているかを例の如くウォッチング(ならぬストーキング)していたヒソカであったが、思いもかけずゴンが高級ショコラ専門店に入って行ったのを見て、普段以上に妄想が暴走して爆発してしまったという具合であった。
(ていうか、自分以外の誰かのためにチョコ買ってるって発想はこれっぽっちも浮かばないのか・・・コイツほんと、ゴンのこととなるとおめでたいよね)
自分の妄想に完全に興奮しきっているヒソカを冷静に分析するイルミであったが、こちらもこちらで無表情ながらもそんなヒソカの様子を見てププッと吹き出しそうになるのを堪えて悦に入っているのだった。
「あ、出てきたよ♥」
イルミにバカにされつつ心の中で楽しまれていることなど露知らず、ヒソカは目を見開き興奮に身体を震わせながらゴンの愛らしい姿を観察する。
ゴンは右手に四角い紙袋を提げて店から出てきた。口元は心なしか嬉しそうに笑みを浮かべ、透き通った瞳は何かしらの決意のようなものを感じさせる。
「ホラ♥ ボクに告白するためにふさわしいチョコレートを見つけて満足している表情じゃないかぁ♥」
舌なめずりをし、ハァハァと息を荒げて身体を震わせているヒソカに対し、「全然違うし」と心の中でツッコミを入れつつ、イルミは「そうだね」と心にもない返事をしてやった。
そうして物陰に隠れながら、しばし無言でゴンの姿を凝視していたヒソカであったが。
「ああぁっ、ボクもう我慢できないよぉぉ♥♥♥」
と吐き捨てると同時にヒソカは「ゴオオォォォンン!!」と叫びながら、少年に向かって一目散に駆け寄って行った。
「え。」とヒソカの突然の行動に戸惑いつつも、何かあってはまずいという大人的な判断と、更に楽しいことが起こるかもしれないという野次馬的根性から、イルミもヒソカに続いてゴンとの距離を詰める。
イルミがヒソカの背後に追いついた時には、怯える少年にまさに襲い掛からんとする勢いでヒソカがゴンに尋ね込んでいた。
「ゴオォォン、そのチョコレート、いったいどうするんだい? 明日はバレンタインデーだよねぇぇぇ♥」
ヒソカの勢いと表情と態度と声と言葉に、とにかくビクビクと萎縮し怯え切っているゴンは、顔を赤くしたり青くしたりしながらパクパクと口を動かしている。
しかし、ヒソカの背後にイルミの姿を見つけると、ゴンは半分泣きそうになりながら助けを求めるような眼差しを向けて、右手に提げた紙袋を両手で持ち直してズイッと差し出した。
「こ、コレ、あげるっ!!」
「え♣」
「え。」
ゴンが手にした袋を、無理やり押し付けるように差し出した相手はイルミで。
呆然と戸惑うイルミを余所に、ゴンは袋を押し付けるとその場でクルッと回れ右して、逃げるように一目散に駆け出した。
ポカーーーン。
取り残されたのは、ゴンから手渡されたチョコを手にしたイルミと。
「・・・・・・!!!」
先ほどは興奮からだったが、今度は絶望と怒りから身体を震わせているヒソカがその場に佇んでいた。
「いや、あの」
無表情で、無感情に言葉を紡ごうとするイルミではあったが、ヒソカは完全に聞く耳を持たずヒステリックに叫び出す。
「キ、キミっ・・・! どうしてキミがゴンからのチョコをもらうんだ・・・!? そ、それは・・・ボクのっ・・・為の・・・♣」
そこまで言うと言葉を詰まらせ、ヒソカはわなわなと握り締めた拳を震わせていたかと思うと、くるりと踵を返し、ゴンが逃げて行ったのとは反対方向へ走り出した。
「うわあぁぁぁ! イルミのバカーーー!!」
そう泣き叫びながら去って行くヒソカの背を呆然と見送るイルミは、アイツってあんなキャラだったっけ? と心の中で僅かな疑問を抱いていた。
そうしてひとり取り残されたイルミと、彼の手の中のチョコ。
ゴンから手渡されたチョコを果たしてどうしたものかと途方に暮れるイルミ。
もらったところでどうしようもないし、甘い物も好きじゃないし、仕方ないから弟にあげようかな、と考えたところで袋の中に入っているカードに気づいた。
二つに折りたたまれた厚手のカード。
ショコラ店で用意してくれたものなのか、茶色と黒のシックなデザインだった。
何気なくそれを手に取り開いてみて、直後、イルミは硬直した。
白い紙面に、子供らしい文字でいっぱいに書かれていたのは。
『ヒソカへ 大好きだよ!!』
「・・・え?」
あれ? と首を傾げるイルミ。
一番ありえないはずの展開に疑問を抱きつつ、ゴンとヒソカ、二人が走り去って行った方向を交互に見比べ、再び首を傾げるのだった。
(うっわーーーびっくりしたびっくりしたびっくりした! 明日渡そうと思ってたのに、いきなり現れるから、びっくりして思わずイルミにチョコあげちゃったじゃんか!)
これでもか、というくらいにほっぺを真っ赤にしてゴンは全速力で駆ける。
が、特に後ろから誰かが追ってくる気配もないので、スピードを緩めて立ち止まり、やがてその場にへたり込んでしまった。
折角、意を決してチョコを買ったのに。
(うううぅぅぅっ、オレのバカーー!!)
せめてチョコを持ち帰っていれば良かったものを、完全に気が動転して、ヒソカに渡すためにチョコを買ったということがバレないようにと咄嗟にイルミに渡してしまったゴン。
しかしながら、後悔先に立たず。
ヒソカのみならず、イルミにまで変に思われただろうなぁ・・・と途方に暮れて、ゴンは半べそをかきながら家路をとぼとぼと歩いて帰ったのだった。
その後、受け取りを頑なに拒否するヒソカに、イルミはゴンから『預かった』チョコを強制的に渡し付けてやり、二人は無事に互いの気持を確認し合えた訳だが、それはまた別のお話。