「・・・っくしゅん!」という小さな音で、ヒソカは夜半に目を覚ました。
元来、眠りは浅い性質だが、くしゃみをしたのが隣で寝ている少年のものだと即座に認識したヒソカは、ほんの僅かに心配そうに身を起こして、ゴンの様子を伺う。
今にもベッドから転げ落ちそうな位置でうずくまって眠っているゴンは、子供特有の寝相の悪さ故か、毛布を剥いで何も掛けていない状態だった。
ヒソカがそっと、ゴンの寝顔を覗き込むと、そこに在るのは微かに笑みを浮かべたような安らかな表情。
その顔を見て、ヒソカは思わず呆れたように溜息をこぼしながらも、フッと笑みを浮かべてしまう。
起こさないよう、そっとゴンの身体を抱き寄せベッドの真ん中へ移動させ、毛布を掛けてやる。
すると、ゴンの笑みを浮かべた寝顔が、更に安らいだものになったように見えた。
その寝顔があまりにも平和そうに見えて、ヒソカは小さな悪戯心さえ起こす気になれない。
(・・・ま、寝てる相手にちょっかい出しても、ね♣)
諦めたように、またひとつ溜息を吐いて、ヒソカは腕枕をしてやる格好でゴンの身体をもう一度抱き寄せた。
改めて、ヒソカはその寝顔を間近で見つめる。
あどけなさや、純粋さや、愛らしさ。
決して「強さ」と同居し得ないはずの、「子供らしさ」の結晶のようなゴンの寝顔。
強い相手と闘うことばかり求めてきた自分には、まったく縁のなかったはずのものだと、ヒソカはその寝顔を見ながら改めて、思う。
強いだけの人間は、まだまだ世界中に何人も居るだろう。遊び相手を探して楽しむ余地は、ヒソカにまだいくらでも残されている。
しかし。
(青い果実は、放っておいても時期が来れば赤くなる♦ だからこそ、未熟なうちを楽しんでおかないと♥)
ヒソカの腕の中で安らかに眠る少年も、いつかは大人になり、それにつれて「子供らしさ」もなりを潜めていく。
成長し、闘りがいのある相手に育つのを楽しみにしながらも、目の前にある、このあどけない寝顔がやがて失われていくことに、ヒソカはなんともいえない儚さを覚える。
だからこそ、より一層、愛しさを感じるのかもしれないが。
(失われていくからこそ、イイなんて・・・柄じゃないんだけどな♣)
自らの思考に、なんとなく気まずいものを感じて、ヒソカは思わず渋面を浮かべたが、ゴンがもぞっと身動ぎしてヒソカに身体を摺り寄せてきたのを見て、再び顔を綻ばせる。
(まあ、今は・・・これで良いか♦)
成熟するまで。
刈り取るまで。
殺してしまうまで。
一瞬、一瞬、失われていく煌きや輝きを、あどけなさや愛らしさを、ひとつずつ心に刻んで愛していけば良い。
今は、彼が「少年」であるうちに出会えたからこそ味わえる楽しみを、ひとつひとつ、大切にしていけば良い。
だから、今は――――今だけは。
「おやすみ、ゴン・・・良い夢を♦」
そっと囁いて、ヒソカはゴンの額に優しくキスをする。
そうして、ゴンの小さな身体を、愛しさを込めて大切に抱き締めて、ヒソカもまた安らかな眠りへとおちていった。