Zoo魔アプリによる、問題児クラスweb会議開催。
突然魔界に発生した未知のウイルスの脅威と戦うべく、感染拡大防止のために悪魔同士の接触を避けることを余儀なくされ、学校などは真っ先に休校となってしまった昨今。
クラスメイトに会えない寂しさを埋めるため、急場しのぎでとりあえず時間と設備の整う者だけで流行りのweb会議を試してみることにした。
参加メンバーは5人、鈴木入間、アスモデウス・アリス、サブノック・サブロ、アンドロ・M・ジャズ、そして主催者のシャックス・リードだ。
「ヤッホー、みんな元気ー?」
笑顔で画面越しに手を振るリードに入間は安堵して「わー、リードくん久しぶりー! 元気だよー」と、こちらも笑顔でほんわかと手を振る。
その笑顔に瞬時に反応したのはアリスで、「入間さまー、アズは元気ですー」と入間単独に両手を振ってハートを飛ばしている。
「アハハ、アズくんは昨日ぶりだね」
苦笑する入間に「26時間ぶりです! 1日以上入間様のお声を聞けないと寂しくて寂しくて……でも、こうして入間様のお姿を拝見できてとても幸せです! これからは電話ではなくこのアプリを使って話しましょう!」とアリスは息巻いて主張する。
二人の会話に、リードが引きながら「えー……それってつまり、毎日電話してるんだー……」と口を挟む。
「アスモデウスも入間くんも通常運転だなぁ。サブローはどうよ?」
のほほんと二人を評するのはジャズで、話を振られたサブロは「ウヌ! 普段以上に鍛錬に身が入っておる! ウイルスなどに負けはせぬわ!」と剛健ぶりをアピールした。
それからしばらくは日常のこと、自由に外出できない不便さ、互いに会えない寂しさなどを銘々語り合っていたが、ふと、話は先日三傑から案が出された買物制限に及んだ。
「あれさー、名前の順で分けて買い物行けとか言ってたけど、実際どうやって確認したりするんだろうねー」
リードの言葉に、どうなんだろうね、と首を傾げる入間達だったが、アリスが何故か勝ち誇ったようにフッと笑って語り出した。
「確認手段がどんな方法だとしても、私が入間様と同じチームで買い物に行けることに変わりはない。「ア」リスと「イ」ルマ、並んでいるのだから我々が同じ時間帯に編成されるのは当然のこと」
フン、と得意げに髪を指で払うアリスに、サブロが「首席、主はアホか?」と呆れ顔でツッコむ。
「ハァ!? 馬鹿にアホ呼ばわりされる筋合いはないぞ!」
サブロに食って掛かるアリスだが、ジャズが横から冷静に「ま、ふつーに考えれば下の名前じゃなくて、名字順だよなー」とサブロに助け舟を出す。
その言葉に、アリスは愕然とする。
「な、何……つまり、私は入間様と一緒に買い物に行けない……だと……?」
大仰にショックを受けるアリスに、「いや、同じ組だとしても、そもそも一緒に行っちゃダメだろ」と、接触禁止の大原則をリードが諭す。
だが、落ち込むアリスの様子が小気味好いのか、今度はサブロが胸を張って主張し出した。
「そうだ! 主ではなく、魔王候補たる己こそが、我がライバルと共に買い物に行くに相応しいのだ! 「サ」ブノック・サブロと「ス」ズキ・イルマ、同組に編成されるは当然!」
フハハハハ、と笑うサブロに「ハイハーイ、ついでに僕も入間くんと同じ組だよー」と「シ」ャックス・リードが手を挙げて便乗する。
入間と同じ組自慢を始める級友たちに歯噛みし、何ということだ、とショックを隠せないアリスに「ちなみに俺はアスモデウスと同じターンだと思うけど」と声を掛けたのは「ア」ンドロ・M・ジャズ。
「黙れ」
「うわっ、酷っ」
冷酷な対応のアリスに、さして傷ついた様子も無くジャズは苦笑を浮かべる。いつも通りのアリスの反応を、むしろ楽しんでいるようにも見える。
そんなアリスの暴走を「あわわわ」と焦って見守る入間も普段通りで、「web会議も意外と楽しいっていうか、結構いつも通りに喋れるもんだねー」とリードは自らの発案にご満悦の様子だ。
だが、不穏な空気を纏う者が一人。
買物制限の組分けで入間と同じ組になれそうもないことを知ったアリスは、一体どうしたら最愛のおトモダチと同組になれるか、何やらブツブツ呟きながら思案に耽っていた。
「入間様と同じ組になるためには……もはや、改名する以外に手段は……」
真剣に思い悩むアリスの表情はとても端正で、もしこの場に他クラスの女子が居合わせようものなら卒倒してしまうのでは、というほどに整った顔が画面に映し出される。
しかし、残念ながらこの場に居るのは男子のみ、しかもアリスの本質や何について悩んでいるのかまで熟知した面々のため、「またいつものが始まった」程度にしか捉えられない。
従前通りではあるが、ブツブツ言い続けているアリスを見兼ねた入間が「ア、アズくん……もし同じ組になれても、いっしょに行けるわけじゃないんだし……家族以外の人との接触は、今は禁止だから……」と困ったように声を掛ける。
その入間の言葉に、アリスはハッと気づいて「そうです、入間様!」と名案閃いた表情を見せた。
「家族になってしまえば良いのです! アスモデウス・入間さま……! あぁ、なんと甘美な響き……!!」
両手を祈るように組み合わせ、入間の架空の名をウットリと唱えるアリス。
「ひえっ」「うわー……」「えぇー」「ウヌッ?」と他の者たちは四者四様の反応を示す。
勿論アリスは入間含む他のメンバーの反応を気にすることもなく、己の理想を熱く語る。
「家族であれば、そもそも組分けなど関係ないどころか、いつでも入間様のお側に居られるわけであり……我ながら名案!」
「いや。名案! じゃねーから」
冷静に真顔でツッコむジャズ。
「ねぇジャジー、僕たちプロポーズの場に居合わせちゃったの……?」
心底困り果てた調子で、リードは小声でジャズに問い掛ける。「ま、いつものことだろ」とジャズは溜息混じりに返答した。
「あ、あの、アズくん!」
そこへ、赤竜も色を失うほどに顔を真っ赤に染めた入間が、意を決したように呼びかけた。
「その……、そういうのは、僕たち、まだ、早いと思うんだ……!」
「!?」
入間の決死の言葉に、「ガーン」という音が響きそうなほどにショックの色を見せるアリス。
「うぬ?」「えっ、アズアズ振られた?」「一人で突っ走り過ぎなんだよ……」と外野は好き勝手言う。
入間は真っ赤な顔のまま「あの、だからね!」と強い眼差しで続ける。
「僕たちがもっと大きくなって、大人になって、自分たちのことをちゃんと自分でできるようになったら……、その時は、その……お願いします!」
両手を握り締めて必死に伝える入間の姿に、絶望に沈んでいたアリスは一転、目をキラキラとさせパアァァと光輝く最高の笑顔を見せた。
「ハイ、入間さまぁー」
最高の喜びに包まれながらダアッと号泣するアリス。
シャランラーと歓喜のファンファーレが鳴り響きそうな状況に、リードとジャズは菩薩の心地で無表情のまま拍手を送った。
そこで、何やら考え耽っていたサブロが一言。
「うむ……首席の野望は入間のホコになることでは無く、ムコになることであったか」
「サブロー、うまいこと言ったつもり!?」
クワッと鋭くツッコミを入れるリード。「アホばっかりだ……」とジャズは天を仰ぐ。
だが、それでこそ『問題児クラス』というものだ。
結局web会議は、そんな『問題児クラス』の中心人物が、「ウイルスが終息して自由に出掛けられるようになったら、みんなで一緒に買い物行こうね〜」と陽だまりのような笑顔で約束を交わし、幕を閉じたのであった。