午前のカリキュラム終了直後。
 問題児クラス生徒は揃って小走りで食堂へ向かう。『みんなで』ランチの約束を取り決めたからだ。全員分のまとまった席の確保のため、早めの動き出しが必要だと判断された。

 だが、食堂に着いてみればそれほどの混雑は無く、大きなテーブルを押さえることが出来た。わーい、とリードが早速席に着こうとするのを、アスモデウスが「ちょっと待て」と制す。

「適当に座るな。先ずは入間様のお席を決めてからだ」
 強めの口調にリードは「えー」と不服を申し立てるが、アスモデウスは全く聞く耳を持たず、輝く笑顔を入間に向けて「さ、入間様こちらへ」と入口から一番遠い席へと案内した。

「入間様は問題児クラスの代表的存在。故に、上座のお席に座するのが必然」
 そう言って、アスモデウスは入間を一番端に座らせ、「側近たる私が、入間様に給仕するのも至極当然」と言い放ち、ちゃっかり隣に座る。

「じゃー、わたしが入間ちのお向かい!」
 手を挙げながら、今度はクララが入間の席の向かい側の一番端の席に座る。アスモデウスは了承したようにひとつ大きく頷いた。

「よし、あとは好きに座ればいい」
 どうぞ、とクラスの他のメンバーに掌を差し出すアスモデウス。

 リード、ジャズ、サブロ、その他クラスのメンバーは顔を見合わせる。
 そして、声を揃えて一斉に叫んだ。



「ちょっと待て!!!!!」



「みんな入間くんと一緒にごはん食べたくて来たのに、なんで端っこに座らせちゃうんだよ!」
「ていうか、アスモデウスとクラりんで入間くんの周り固めちゃったら、いつもと一緒じゃん」
「入間もアスモデウスの好きにさせるでない。ヌシもたまには己の横でメシを食いたかろう」

 やいのやいの騒ぎ立てるクラスメイト達。自分の采配に難癖を付けられたアスモデウスは「でぇい、黙れ!」と不満げに怒鳴りだし、入間はアスモデウス含むクラスメイト達の苛立ちを抑えようと困り顔で「まあまあ」と宥めている。
 アスモデウスvs他の男子たちの対立に、笑顔で援護を加えたのはエリザベッタだった。

「ねえ、アスモデウスくん。リードくんも言ってたけど、みんな入間くんと一緒にお食事したくて集まったのよ? 独り占めはズルいわ」
 エリザベッタにやんわりと窘められて、アスモデウスはウグッと引いてしまう。紳士な彼にはこの一撃は効いたようで「いや、入間様を独り占めなど、そんな恐れ多い……」と口ごもった。

 その様子にリードたちは「姐さん良いぞいいぞー」と控えめに声援を送り、それを受けたエリザベッタが「入間くんは、みんなとお話しできるように真ん中に座りましょ」と、笑顔で入間の腕を引く。

「あ、う、うん……」
 こちらは女性に限らずだが、誘いを断れぬ入間はエリザベッタに手を引かれるがままに真ん中にすとんと腰を下ろす。そして、入間の隣にエリザベッタ、反対にサブロ、正面にリード、その隣にジャズ、という具合にクラスメイト達は次々に入間の近くの席を占拠していく。

 みんなと一緒にお昼ごはんを食べられるのは、入間としても、とても嬉しいイベントだ。

 しかし。

 アスモデウスの様子が気になってちらりと見やれば、しょんぼりさみしそうに肩を落としている。つられてクララも遠慮しているのか、入間の近くの席を主張できずにいるようだ。『みんな』を優先すると、アスモデウスやクララがさみしがる。あちらを立てれば、というやつで、この現実が入間の胸をチクリと刺す。
 どうにかして、みんなが笑顔で食事をする方法は無いものかと、入間は思案に暮れる。

 自分が真ん中に座ったところで、端の席は遠いし、同じ列に座った相手は顔も見えない。さすがにランチタイムという限られた時間で、途中で席を交換するなんて余裕もないし……とうんうん考えていた入間だったが、他クラスの生徒がお盆に魔ーメンを載せて運んでいるのを見て、「あっ!」と思いついた。

「みんな、ちょっと離れてて!」
 入間がそう声を掛けると、皆めいめいに立ち上がって席を離れる。不思議そうな視線を浴びながら、入間はニッと笑ってテーブルに右手をかざして呪文を唱えた。

「チェルーシル!」

 入間が変化呪文を唱えると同時にテーブルがパアッと光り輝き、大きな四角いテーブルは見事に円卓へ形を変えた。
 その出来栄えに、入間は満足そうに頷いて「ほら!」とクラスメイトに笑顔を向ける。

「これならみんなの顔を見ながらごはん食べられるよ!」
 ニッコリ笑う入間に、先ほどまでしょんぼり落ち込んでいたアスモデウスが真っ先に笑顔を返した。

「さすがです、入間様! まさか円卓とは……そのご発想、思いやり、やはり入間様はこの悪魔学校、引いては魔界全土を統治するにふさわしいお方!」
 褒め称えるというよりは、どこか誇らしげにまくし立てるアスモデウス。「いやいや、統治はしないけど……」と入間は苦笑する。

 他のクラスメイト達もこれなら、と満足げな様子だが、その中でエリザベッタが不思議そうに「ねえ、入間くん」と首をかしげた。

「この円卓、とっても素敵だけど、どうして二段になっているのかしら?」
 何か、お花でも飾る用なの? とエリザベッタは疑問を投げかける。その傍らで、クララとリードが「あ、コレ動くよ、回る!」と円卓の上段が回せることに気付いてグルグル動かして遊んでいる。

 入間が魔ーメンを見て咄嗟に思い付いた円卓のため、頭の中に描いたイメージが中華仕様になってしまったのだ。それについて、「えっとね、それは……」と上段が回転する理由を入間が説明しようとした瞬間に、サブロが「ふむ、つまりこういうことだろう」と納得したように頷いた。

 そして、サブロは入間の両脇を抱え、小さな身体を軽々と持ち上げて、ストンと円卓の上段の中心に座らせた。

「……え!? 何!?」
 突然テーブルの上に座らされて挙動不審になる入間に、サブロは非常に満足そうに頷く。
「うむ、これで皆、入間と話をしながらメシが食える」
 サブロの言葉の意を汲み取ったように、クララとリードが「わーい、入間ち、こっちー!」「いやいや、入間くんこっち向いてよー!」と入間ごと回転テーブルをグルグル回している。

「ギャーー! 目が回るうぅ……」
 たらふく回転を味合わされ、フラフラになった入間を慌ててアスモデウスが抱きかかえてテーブルから降ろす。

「バカ者!! 入間様になんということを……!」
 大丈夫ですか、入間様!? 心底心配そうに尋ねるアスモデウスに、グルグル目を回しながら「らいじょーぶだよ、アズくん」とちっとも大丈夫ではない口調で答えた入間。
 おのれ、入間様をこのような目に遭わせるとは、とサブロ・クララ・リードをぎろりと睨み付け、アスモデウスは右手に炎を灯す。

 そこへ、非常に馴染み深い「粛に!」が食堂に響いた。

「また貴様らか……一体何の騒ぎだ、食事くらい大人しくできんのか!」
 問題児クラスの集まるテーブルにつかつかと歩み寄り、不機嫌全開で苦言を呈すカルエゴ。
 「なんだこのテーブルは」と円卓にケチをつけているカルエゴに、グルグルから復活した入間が「あ、あとでちゃんと直します〜」と笑顔で応対している。

 その様子を見ていた、入間を除く問題児クラス全員の心が一瞬でひとつになった。

 皆、無言で頷き合い、クララに目配せを送る。クララはいつになく真剣な表情で、コクン、と頷き、ポケットから1枚の紙切れ、もといシールを取り出す。
 そして、クララは問答無用で入間の右手の甲にシールを貼り、アスモデウスがその手を取って上に掲げさせた。
 瞬間、カッと閃光が走り、カルエゴの姿が消え、代わりにモフモフが出現する。

「……んなっ!?」
 突然の出来事に唖然とするモフエゴの体をジャズとサブロがガシッと捕え、円卓の中心にボスッと座らせる。「ケロちゃん、やっちゃえ〜」と笑顔でささやくエリザベッタの言葉を受け、ケロリはモフエゴの尻を円卓に凍り付かせ動きを封じてしまう。

「なんだこれは!? 貴様ら、一体……!」
 喚くモフエゴの乗る回転テーブルを、クララが嬉々としてギューンと高速回転させる。ピギャー! と切ない鳴き声が食堂中にこだまする。

「さ、円卓の正しい使い方も分かったことだし、ごはん注文しに行こう、入間くん」
 リードが実に楽しそうな笑顔で、ポンと入間の肩を叩きながら声を掛けた。

 なんだかとんでもないことになってしまったと、入間はアワアワしながら心の中でカルエゴにごめんなさいをする。
 しかし、召喚解除はしない辺り、入間もまた歪みなく問題児クラスの一員なのだった。